コラム Column

2022年01月11日

事業承継でつなぐ港ヨコハマ老舗洋食店の味と文化​

​時を超えて愛される老舗洋食店

横浜の山下公園にほど近い場所に「ホフブロウ」という洋食店があります。

1947年(昭和22年)にハンガリー人が創業、かつては、横浜港に寄港する外国船の船客、船員に愛され支持された酒場でした。その後、1980年(昭和55年)に​今の場所に移転、創業から75年近く経つ現在も、地元の常連さん、また、観光客などに人気の洋食店になっています。異国ムードが溢れる内装はノルウェー人のデザイナーが作ったそうです。店内に置かれたグランド・メニューを開くとワクワクする気持ちが抑えられません。「スパピザ」や「ジャーマンポテト」などの看板メニューはいまも健在です。

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事業承継でつなぐお店の伝統

​30年ほど前は、入口近いカウンターの奥にドイツ人のおばあちゃんがいつもおり、お店の顔として、お店を仕切っていました。

その後、創業者のタイピストだった方が次のオーナーになり、1999年(平成11年)に現在のオーナーが引き継いでいます。元々、入居するビルの所有者だったそうですが、前オーナーから「お店をやらないか」と声かけられ、譲り受ける形でオーナーになったそうです。

2012年から2013年の一時期、巷間では「ホフブロウが閉店したらしい!」という話もありましたが、店内の一部の改装を経て営業を再開、今も昔ながらのホフブロウのスタイルとメニューが受け継がれています。何十年も通い続ける常連客が多いのもうなずけます。

後継者に承継する要素として、「人(経営)」「資産」「知的資産」があると言われます。「ホフブロウ」が何故にお店を継続できるのでしょうか?3つ目の資産 ”目に見えない資産” (経営理念・経営者の信用・従業員の技術ノウハウ・顧客情報など)に「ホフブロウ」を支え続けている強みがあるのかもしれません。

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コロナ禍、進まない事業承継​

閉店率が高いと言われる飲食店(10年後閉店率95%とも云われます)にあって、「ホフブロウ」は、約75年の長きにわたり、第三者による事業承継を経ながらをお店を継続してきました。

日本全体に目を移すと、約7割の企業が事業承継を経営上の問題として認識している一方、経営者の高齢化は依然として止まらず、また、後継者不在率も高い状況が続いています。

全国の経営者の平均引退年齢は、中規模事業者が67.7歳、小規模事業者が70.5歳と過去最高水準に到達しています。経営者の平均年齢を踏まえると、今後5年程度で一斉に経営者の引退が起きることが想定されます。​さらに、コロナ禍の影響もあり、事業承継を後ろ倒しにする中小企業が増加しているようです。

​中小企業庁のアンケート調査によると、社長交代時の「年齢が若ければ若いほど事業承継後の業績が向上」する傾向が見られます。事業承継に最適なタイミングは、「実際の年齢よりも平均で7歳早い時期」との回答に現状が映し出されます。

https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/kihonmondai/2016/download/161128kihonmondai03.pdf

​​事業を承継する後継者、特に若い世代にとって中小企業を承継することがビジネスチャンスであるという社会的気運を醸成することも、今後、大切になってきます。

中小企業庁『事業承継ガイドライン』の公表​

中小企業庁は、円滑な事業承継の促進を通じた中小企業の事業活性化を図るため、具体的な対応策、事業承継支援体制の強化の方向性等について取りまとめた『事業承継ガイドライン』を2016年(平成28年)に策定しています。

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2016/161205shoukei1.pdf

同ガイドラインを踏まえ、経営者の皆さまに、より分かりやすくまとめた『経営者のための事業承継マニュアル』を作成、さらに、10年先を考えた会社の見える化・磨き上げや事業承継に向けたアクションをまとめた冊子『会社を未来につなげる-10年先の会社を考えよう-』を作成・配布しています。

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170410shoukei.pdf

https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/2017/170327shoukei.pdf

事業承継をサポートする身近な相談相手は?

事業承継を検討している経営者の皆さまにおかれましては、中小企業庁の作成したこれらのマニュアルを一度、お目通しいただくことをお勧めします。

一方、これらのマニュアルにおいても、情報量は相当なものがあり、具体的にまず何をしたらよいのか分からない、といった印象を持たれるかもしれません。いたずらに時間が経過してしまう原因にもなりかねません。

事業承継は、主に、現役の経営者自身が取り組むべきことが多く、また、日々、経営者としての活動と並行して取り組むことは容易ではありません。また、後継者が親族内、あるいは社内の役員・従業員にいない場合は、社外の第三者への引継ぎ(M&A等)による事業存続を探ることになります。

事業承継の支援体制として、身近な相談相手では、日頃接する機会が多い税理士・銀行等の存在があります。一方、検討事項が多岐にわたり、それぞれに専門性が求められること、また、その解決策も複数の検討が必要になることから、当社のような独立系のコンサルティング会社にご相談いただくことも一考に値すると存じます。

お客さまの存在が歴史をつくる​

現在のオーナーは女性の方ですが、あるインタビューで次のようにお話しされていました。

「歴史あるお店なので、私は新米の形だけのオーナーです。ここの本当のオーナーはこの店の常連様の方々です。」

「その昔、学生時代にデートでよくここへ来たという話や、若いころにこの店でプロポーズしたという方が今でもその奥さんと食事に来てくれたり、青春時代をこの店で過ごした方が奥さんやお子様や連れて来てくださったりする話を聞くと、この店をしっかり守っていかないとなと、いつも気持ちが後押しされます。」

港町ヨコハマの文化の中で育てられた長い歴史を感じさせられる、オーナーならではの言葉です。​

​さて、昨年12月末に久しぶりに「ホフブロウ」に足を運んでみました。店内の雰囲気、定番のメニューは以前と変わらず大変満足できました。「スパピザ」は、元々はスパゲティピザ風焼きと呼ばれていたそうで、ドイツの家庭料理がルーツとのことです。一緒にいただいたビーフシチューオムライス、焼きカレーも美味でした。

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