2023年06月19日
信託型ストックオプションは、給与課税!! どうなる今後のストックオプション制度の改革
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信託ストックオプションとは
5月30日付けで、 国税庁は「信託型ストックオプションに対する課税(Q&A)」を公表し、信託型ストックオプションは、行使時に給与課税となることを明確にしました。
信託型ストックオプションは、現在、スタートアップ企業をはじめとした上場新興企業約100社、未上場企業約700社と、多くの企業が導入している状況です。
そもそも信託型ストックオプションは、なぜ、このように多くの企業が導入しているのでしょうか?
それは、ストックオプションを(法人課税)信託にプールすることで、好きなタイミングで、後から入社してきた役員・従業員にも、プール時の低い価格でストックオプションを付与(受益者確定)できるという特徴のあるインセンティブプランだからです。そのため、必要な専門人材の確保にために大きな効果を発揮すると期待し導入してきたと思います。従来のストックオプションは、後から入社してきた役員・従業員へストックオプションを付与しようとすると、企業の業績に伴って自社株の価額は上昇しており、ストックオプションの行使価額も高くなってしまいます。したがって、創業期からの役員・従業員に比べると、彼らへのインセンティブは、効果が低くなってしまうという従来のストックオプションのデメリットを解消することができます。
ただし、この効果は、ストックオプションの保有者が、ストックオプションの行使時には給与課税とならず、株式の譲渡時に譲渡所得課税(20.315%)となる前提で、成り立つものです。
あらためて、信託型ストックオプションのスキームは、以下の通りです。
信託型ストックオプションの行使時の給与課税はなぜ?
国税庁は、なぜ、信託型ストックオプションの行使時の給与課税とするのかについては、以下のコメントがわかりやすいと思います。
「信託という『箱』を利用しているだけで、役員や従業員は会社から権利を無償で得ている。実態を重視すると、無償のストックオプションだと考えており、原則、給与となる。一定の条件を満たせば税制の優遇措置を得られる制度があるが、 これまでの信託型は該当しない。にもかかわらず、税務上、有利な扱いになると主張しており、既存制度をないがしろにしている」(日経新聞電子版6月12日:国税庁の山県哲也個人課税課長のコメント)
また、今回の公表は、従来からの国税庁の見解を明確化したものであり、公表前後で取り扱いが変わるものではないとしています。
信託型ストックオプションの導入企業とストックオプションを付与された役員・従業員への具体的な税務上の取扱い
信託型ストックオプションを導入し、すでにストックオプションを取得した役員・従業員の権利行使が進んでいる場合は、過年度の当該役員・従業員への給与課税が行わることとなり、その企業は、過年度の源泉税の納付が生じることとなります。
すでに、役員・従業員が株式を売却している場合は、譲渡所得を減らし、給与所得を増やす所得税の再計算が必要となります。
一方で、信託型ストックオプションは 、国税庁は、上記の役員・従業員への無償のストックオプションと考えていることから 、その他の税制適格ストックオプションの要件は新株予約権の割当時に定める事項であるため、それを割当時に満たせば、税制適格 ストックオプションとすることができます。
今後の政府のストックオプション制度の改革の方向性
現在、税制適格ストックオプションに関する通達改正が行われようとしている。5月30日付けで、租税特別措置法の通達改正が、意見公募手続(パブリックコメント)が行われている。
それによると税制適格ストックオプションの要件のうち、付与契約時の1株当たりの価額を、取引相場のない株式についての財産評価基本通達で算定した価額で設定していれば、権利行使価額要件を満たすこと等を明確にしている。このことで、税制適格ストックオプションの権利行使価額を従来よりも低く設定できることが想定される。
さらに、政府は、ストックオプション制度の改革として、権利行使価額を取締役会で決められる会社法の改正、租税特別措置法の保有者1人当たりの年間権利行使上限や株式保管委託要件の緩和等で、税制適格ストックオプションの課題を解消しながら、幅広い普及を計っていく方向性であることが報じられています。