2019年08月13日
「事業承継税制の特例措置」を使うべき企業、そうでない企業
事業承継税制は遡るとH20に創設され、少しづつ改良がなされてきたのですが、H30税制改正までは、結局のところ使い勝手が悪く、あまり利用が進みませんでした。
これが、H30税制改正により事業承継税制(納税猶予・免除制度)の特例措置が創設され、一気に使える内容に変わり、中小企業の相続事業承継対策においては必ず検討すべき事項となりました。
我々もお客様の事業承継をお手伝いする際には、必ず説明し、選択肢としてお客様に提供する必要があると認識しており、多くのお客様と打合せを行っております。
さて、本日は、その事業承継税制の特例措置について、個人的見解を書かせて頂きます。
事業承継税制の特例措置は「贈与税の納税猶予」と「相続税の納税猶予」の2部構成になっています。
「贈与税の納税猶予」を利用すると、必ず「相続税の納税猶予」の利用に繋がるのではなく、別物として切り分けて考える必要がございます。
(お客様と話してみても、意外とこれが抜けていらっしゃる方が多い印象を受けています。)
先に結論を書いておくと、「贈与税の納税猶予」については、後継者が決まっており、先代経営者が2027.12.31(特例措置適用期限)までに代表権を後継者に譲れる、という会社の場合は使った方が良いと考えています。
一方、「相続税の納税猶予」については、お客様の事例に触れる度に考え方が変わったりもしますが、今日時点の意見としては7:3くらいで使った方が良いと考えています。
【贈与税の納税猶予】
まず、流れを簡単に確認します。
先代経営者が後継者に株式を一括贈与します。
通常であればここで贈与税負担が生じます。
ところが、事業承継税制の特例措置を利用すれば、贈与税が全額「猶予」されます。
いつまで「猶予」されるのか・・・
先代経営者が亡くなると、「猶予」されていた贈与税は全額「免除」されます。
これだけ聞くと「素晴らしい」という評価になりますが、そこまでウマい話にはなっていません。
先代経営者の相続税計算の際、生前に後継者に一括贈与した株式は、先代経営者の相続財産とみなされ、相続税の課税対象になります。
つまり、先代経営者は株式を持たずに相続をむかえるにも拘わらず、株式を持っているとみなして相続税計算をするということです。
株式を相続財産とみなして相続税計算する際、株価は「贈与時の株価」となります。ここがポイントです。
退職金支給等で株価を下げたタイミングで株の移動を行うのはセオリーですが、これまでは売買や相続時精算課税という選択肢でいづれにしてもキャッシュアウトが必要な取引 でした。
しかし、贈与税の納税猶予を活用すれば資金負担なく、低い株価で固定できることになります。株価を引下げて一括贈与を行えば、将来の相続税計算の際に相続財産とみなす株式の株価が、低い価格で固定できるということです。
資金負担なく、低い株価で固定できること、これが「贈与税の納税猶予」は使うべきと考える理由です。
【相続税の納税猶予】
上記のとおり、先代経営者が亡くなると、生前に一括贈与した株価を相続財産とみなして相続税計算を行います。
そして、計算された相続税のうち、株式相当分については、「相続税の納税猶予」の活用を後継者(2代目)が選択すれば、相続税が猶予されます。
いつまで「猶予」されるのか・・・
後継者(2代目)の次の世代(3代目)に株式を一括贈与すると、「猶予」されていた相続税が「免除」されます。
1代目から2代目への相続税、2代目から3代目への相続税というように、代替わりのたびに相続税を支払わなければならないというのが一般的ですが、うまく事業承継税制の特例措置を活用することができれば、2代目は相続税の支払いが無くて済むということです。
更にその先も、身内で後継者が続けば、株式の承継にかかる税負担から解放されるということです。(特例措置が継続して使えるという前提で)
株価が高い優良な会社ほど、この節税インパクトは大きくなり、使えるものなら使ってみたいと考えるのが普通ではないかと思います。
株価下落時の救済措置もあるので、明確なリスク(デメリット)というのは無いのではないかと考えています。
しかし、「贈与税の納税猶予」とは異なり、「相続税の納税猶予」は、「使った方が良いですよ!」と積極的に提案することは個人的には少ないのかなと思っています。
理由は次のとおりです。
相続税の納税猶予が免除に変わるのは3代目への株式承継時です。私が携わらせて頂いている相談案件においては、2代目の今の年齢は30代や40代が多い印象を受けていますが、当然その子供(3代目)はまだ小さいということになります。
3代目に株を承継するのは、今から言うと何年先の話か・・・と考えてみると、「猶予期間」が超長期になることが想定されます。
途中で株式を他人に譲渡すると、猶予されている相続税は一括納付しなければなりません。
超長期間にわたり、自社の経営が今と同じように順調に続いていると確信をもてる経営者はなかなかいないと思います。ビジネス環境は直近だけみても激しく変わっていっていますし、人口も減っていきます。
将来、他社との戦略的な資本提携を検討する(あるいは、救済を求める)ことも可能性としては当然あるはずであり、その重要な意思決定をする際、「猶予されている税金を支払わなければならない」という事実が、意思決定に少なからず影響を与えるのではないかという点が懸念されます。
「猶予」はあくまで「猶予」であり、実際に「免除」に辿りつけるケースはそう多くはないと考えており、いつか支払わなければならないのであれば、面倒な手続きや心理的な負担を背負うことなく、相続税を支払っておく方が良いとも思っています。
まずはご自身の財産にどの程度の相続税がかかるのか、そして、納税猶予を活用するなら猶予される金額はどの程度になるのか、それは支払えない金額なのか等の試算を行ってみることをお勧めします。
そして、他の株価対策や、納税資金対策等も検討し、総合的に意思決定していくことをお勧めします。
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