コラム Column

2021年11月15日

これで分かる事業承継税制の基礎知識│自社株式への課税が免除される仕組み

事業承継税制とは、現経営者から後継者へと自社株式の引き継ぐ際に、その株式を対象とする贈与税や相続税を実質的に免除する制度です。平成30年度税制改正では「特例措置」が創設され、株式の承継にかかる納税分が100%猶予されるようになりました。
これだけだと申し分のない制度ですが、もちろん実施の目的に沿った一定の要件が設けられています。注意したいのは、その趣旨上、適用申請時点で免除が確定するわけではない点です。

それでは、一体どのようにして制度から節税へと繋がるのでしょうか。事業承継税制の理解で欠かせない基礎知識として、仕組みと要件を分かりやすく解説します。

 

事業承継税制の基本│相続税・贈与税が減免される仕組み

会社経営者が保有する株式は総じて高価であり、生前贈与や相続で事業承継しようとすると、後継者個人に多額の税負担をかけてしまいます。これが原因で地域の活力となる中小企業を失わないよう、贈与税や相続税を猶予するのが「事業承継税制」の役割です。

最重要ポイントは、適用された時点では「納税猶予」に留まる点です。事業活動の継続(経営承継円滑化法第1条)を支えるための制度である以上、経営状況の経過観察付きで猶予を当面継続しつつ、条件を満たした時に免除する仕組みが採られています。

 

生前贈与の場合

生前贈与による経営者交代では、株式にかかる贈与税が一定範囲で猶予されます。猶予税額は先代経営者が亡くなった時に免除されますが、この時点で「対象株式は相続または遺贈で取得したもの」と扱われ、相続税が課税されます。引き続き税を負担しないようにするには「相続税の納税猶予」への切替確認が必要です。
後継者から3代目経営者へ同じく生前贈与による交代を行おうとする場合も、同じような仕組みで免除に至ります。

事業承継税制(贈与税)の適用の流れ

 

相続の場合

相続による経営者交代では、「相続税の納税猶予」が開始されます。後継者が納付するのは、取得した相続財産のうち自社株式を除いた部分の課税額のみです。
その後の流れは、生前贈与の場合と同様です。つまり、原則として生前贈与あるいは相続で再び交代に至ったタイミングで、猶予税額の免除に至ります。

事業承継税制(相続税)

事業承継税制は2つある│一般措置と特例措置の5つの違い

平成30年度税制改正以降、事業承継税制は「一般措置」と「特例措置」のいずれか一方を選択できます。
一般措置とは、平成20年の制度創設から存在する措置です。特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの10年間に渡って選択できるもので、猶予・免除の範囲と適用要件が拡大されています。以降では、2つの措置の違いのうち、重要なポイントを5つまで絞って解説します。

事業承継税制の比較

特例承継計画の提出要否

第1の違いは、事前の承継計画策定・提出の要否です。
一般措置の場合、計画のチェックを受ける必要はありません。一方の特例措置では、贈与または相続の時期を基準とする一定の期限内に「特例承継計画」を取りまとめ、都道府県知事の認定を受ける必要があります。また、措置自体の実施期間も決まっており、計画提出の受付期間は一層短くなっています。

 

猶予・免除の範囲

経営者サイドとして最も気になる第2の違いは、猶予・免除の範囲です。
一般措置は発行済議決権株式総数の3分の2が限度であり、課税額に対する猶予割合も贈与は100%・相続は80%とされています。一方の特例措置は、全株式を対象に、贈与か相続かを問わず、100%猶予および免除の対象となります。

後継者の数

第3の違いは、適用できる後継者の数です。
一般措置の場合、後継者が複数いても、その中で最も多く議決権を保有する1人のみが対象です。特別措置の場合は、議決権数の下限を10%としつつも、保有数上位3人まで適用対象にできます。

 

雇用確保要件の有無

第4の違いは、納税猶予期間中の事業継続要件のうち、雇用確保に関するものです。
一般措置の場合、免除にあたって経営承継後に5年平均で雇用が8割を維持しなくてはなりません。特例措置だと、仮に雇用が水準未満になったとしても、認定経営革新等支援機関の意見を付した理由報告書を提出すれば、引き続き免除に向けて納税猶予が継続されます。

 

事業継続が困難になった場合の扱い

第5の違いは、事業継続が困難になった場合の取扱いです。
一般措置の場合、民事再生や会社更生等で猶予税額の一部を残して免除されますが、譲渡や合併は対象外です。特例措置なら、上記どちらの手続きを選択しても免除の対象になります。

 

事業承継税制の適用要件

事業承継税制(一般・特例)の適用要件を整理すると、会社・先代経営者・後継者・担保の4つに分類されます。全ての条件を満たせる事例のみ、制度利用を検討できます。

 

会社の要件

事業承継税制の対象になるのは、経営承継円滑化法第2条で定義する「中小企業者」です。個別の会社が中小企業者と呼べるかどうかは、業種別に「資本金の額」または「常時使用する従業員数」から判断します。

なお、特定資産の保有・運用が中心の「資産管理会社」だと、中小企業者の規模に該当していても事業承継税制は利用できません。ここで言う特定資産とは、有価証券・賃貸不動産・関係者への貸付金等です。
とはいえ、資産管理会社であっても下記要件に当てはまるなら、例外的に事業の実態があるとして適用が認められます。

▼資産管理会社でも事業承継税制を適用できる要件※
① 商品販売等の事業を3年以上継続して営んでいる
② 常時使用する従業員(後継者と生計を一にする親族は除外)が5人以上いる
③ 親族外従業員が勤務する事務所、店舗等の固定施設を所有or賃貸している

※租税特別措置法施行令第40条の8第6項

 

先代経営者の要件

事業承継税制を適用しようとする先代経営者には、代表権に関する3つの条件が課されます。生前贈与による事業承継、つまり贈与税の納税猶予および免除に関しては、制度の趣旨上「代表権を手放すこと」が追加されます。要件上、拒否権付株式(黄金株)を保有しているなら、後継者以外は手放さなくてはなりません。

▼先代経営者の要件
・会社の代表権を有していた
・ 特別の関係がある親族と合わせて総議決権数の50%超を保有する
・ 後継者を除く②の中で最も多く議決権を保有していた
・ 贈与時において代表権を有さない(※贈与税について措置を受ける場合)

 

後継者の要件

事業承継税制の適用において後継者に課される条件は、事業承継の方法、つまりここでも猶予・免除してもらおうとする税金の種類によって異なります。

▼後継者の要件【贈与税の納税猶予および免除の場合】
① 贈与時、会社の代表権を有している
② 贈与時点で20歳以上(令和4年4月1日以降の贈与は18歳以上)
③ 贈与時、役員就任から3年以上経過している
④ 贈与時、特別の関係がある親族と合わせて総議決権数の50%超を保有する

▼後継者の要件【相続税の納税猶予および免除の場合】
① 原則、相続開始の直前において役員である
② 相続開始日の翌日から5か月経過時点で代表権を有している
③ 相続開始時、特別の関係がある親族と合わせて総議決権数の50%超を保有する

相続税の措置を受ける場合の①の例外規定に関しては、令和3年度税制改正で緩和されています。
旧法の規定では、相続開始直前において後継者が役員になっていなくとも、被相続人が60歳未満で死亡した時には適用できるものとしていました。この死亡年齢の規定につき、改正法は「70歳未満」と拡大しています。
特例措置については、さらに「特例承継計画に後継者として記載されている場合」も、役員就任済でなくとも適用を認める要件として追加されました。

 

担保の要件

忘れてはならないのが、税務署への担保提供です。その金額は、猶予される税額および利子税に見合うものでなくてはなりません。
適切なのは不動産その他事業とは無関係の財産ですが、場合によっては猶予の対象になる自社株式自体を担保とします。

 

事業承継税制の適用スケジュール│申請手続きから税金免除まで

最重要ポイントと紹介したように、自社株式に対する課税の減免は「後継者の代で事業継続にかかる要件を満たし続けられるか」が要です。適用申請後の状況に関しては、定期的に税務署に届け出なくてはなりません。さらに、特例措置を受ける場合には、中小企業庁への計画提出も必要です。
適用申請から猶予税額が免除されるまでの流れを、ここでチェックしてみましょう。

 

特例承継計画の提出

特例措置を適用したい場合は、経営承継後のプランを策定して都道府県庁に申請し、認定書の交付を受けなくてはなりません。

▼特例承継計画の提出期限
贈与税の猶予・免除:贈与年の10月15日~翌年1月15日
相続税の猶予・免除:相続発生後5か月経過日~8か月目経過日※

申請にあたっては、中小企業庁指定の書式に沿って「認定申請書」と「特例承継計画の確認申請書」の2点が必要です。
前者は会社の基本情報を説明するための書類ですが、証明書類の収集の他に、あらためて事業承継支援の対象になるか検討しなければなりません。問題は後者で、税理士経営者交代後の見込みを具体化する必要があります。

 

納税猶予の申請

認定書等の必要書類が揃ったら、贈与税あるいは相続税の申告書で事業承継税制の適用申請を行います。相続時精算課税制度を適用する場合は、その旨も明記しなくてはなりません。
課税額の計算や添付書類の確認等の対応があり、ミスが許されない部分です。

 

事業継続の届出・報告

全体の流れを通して最も重要なのは、年次報告書・継続届出書の提出です。
承継期間である申告期限後5年間は、毎年それぞれ都道府県庁と税務署に提出しなくてはなりません。5年経過後は実績報告を行い、6年目以降も3年に1度のペースで税務署に届け出る必要があります。

 

納税猶予が終了する場合

承継期間である申請後5年間は、代表者の地位・猶予対象株式の保有・経営状況の3つを維持しなくてはなりません。下記は猶予期限の確定事由にあたり、該当するとただちに利子税込みで納付しなくてはなりません。

▼承継期間中のみ有効な猶予確定事由
・ 後継者が代表者を退任した
・ 先代経営者が再び代表者になった
・ 議決権過半数要件を満たせなくなった
・ 同族内の筆頭株主ではなくなった
・ 種類株式の発行等で議決権を制限した
・ 雇用維持要件を満たせなくなった
・ 会社更生や破産手続に入った

制限が緩和されるのは、事業承継から5年が経過した後です。とはいえ、猶予対象株式を手放したり、事業の実態に著しい変更があったりすると、やはり猶予期限が確定します。

▼承継期間後も有効な猶予確定事由
・ 猶予対象株式を一部譲渡した
・ 事業の実態が変わり、資産管理会社になった
・ 資本金・準備金が減少した(欠損補填目的を除く)
・ 総収入金額がゼロになった
・ 会社の分割・組織変更・解散等があった

 

猶予税額の免除(後継者の死亡等)

事業承継税制による免除は、原則として承継期間後です。かつ「次の事業承継が起こる時」か「何らかの事情で経営を断念する時」に限られます。

① 先代経営者が死亡した(承継期間中でも免除対象)
② 後継者が死亡した(承継期間中でも免除対象)
③ 健康上の理由で後継者が退任した
④ 3代目経営者が新たに認定を得て就任した
⑤ 承継期間後になって、会社更生や破産手続を開始した
⑥ 事業継続が困難になり、会社の譲渡・合併等を行った(※特例措置のみ)

上記④・⑤に関しては、全額免除されるわけではありません。事由が発生した時の株価(経営承継時の評価額の50%が下限)を計算した上で、これと直前配当額との合計を猶予税額と比較し、その差額分のみ免除となります。

 

事業承継税制のメリット&デメリット

親族内承継を予定するケースでは、事業承継税制は経済面で「使わない手はない」とも言える対策です。一方で、スケジュールが長期化する点から、承継後の会社の展開に制約が生まれると言わざるを得ません。
制度利用の際は「必ずしも良い面ばかりではない」と十分理解し、専門家による状況診断と手続き支援を欠かさず受けるべきです。

 

株価対策&納税資金対策の重要性が薄れる【メリット】

事業承継税制のメリットは、何と言っても他の税対策の重要性が薄れる点です。
まず考えられるのは、配当金や利益の引き下げ、第三者割当増資等による「株価対策」でしょう。併せて、生命保険や生前退職金を活用し、後継者が相続で取得するキャッシュを増やして納税分を確保する手法も考えられます。
上記のような税対策は極めて多岐に渡り、会社ごとに適切な方法を見極めていく必要があります。課税が免除されるなら、こうした対策は優先度を下げても構いません。

納税猶予終了のリスクに備える必要がある【デメリット】

そうは言っても、税対策を事業承継税制に一本化するのは不可能です。制度の仕組み上、会社自体がなくなる等して猶予が終了するその時まで、ひたすら課税を繰り延べているだけとも言えるからです。
適用申請から免除までの一連のサイクルも、基本的に5年以上と長期化します。その間に早くも猶予期間が確定し、税負担が発生してしまうかもしれません。

以上の点から、引き継いだ後の安定的な運営を可能にする対策は当然のこと、猶予終了時の負担を軽くするための諸々の税額圧縮策も実施しておくべきです。

 

おわりに│事業承継税制は専門家による支援が必須

生前贈与や相続による経営者交代では、事業承継税制で高額課税を回避できます。特例承継計画の提出に対応できるなら、自社株式に対する課税は実質全額免除です。
注意したいのは、こうした制度上の“大盤振る舞い”の交換条件として、後継者の代での継続安定的な経営が求められる点です。なるべく早めに財務や事業計画の診断を行い、納税猶予の取消事由に該当した場合も想定しつつ、手続きについて専門的な支援を受ける必要があります。

▼事業承継税制の理解のポイント
・ 適用時点で課税の免除が確定するわけではない
・ 100%免除は特例承継計画の提出要
・ 後継者の代で定期報告義務あり
・ 株価対策&納税資金対策は不要にならない

事業承継税制の適用は、会社を「継ぐ」だけでなく「守る」ことにも長けた専門家に相談しましょう。

 

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