コラム Column

2022年01月07日

事業承継でよくある7つの失敗事例│承継前にやっておきたい対策とは

事業承継は、先代経営者が大切に育ててきた会社の「維持」だけでなく、経営革新等による「発展」も見込んで行われるものです。実際のところ、発展どころか維持すら不可能になり、承継後にトラブルが連鎖して経営断念に追い込まれないとも限りません。

事業承継の失敗は、どれも準備不足が原因と言わざるを得ません。よく見られる7つの失敗事例を踏まえた上で、先代経営者がやっておくべき対策を検討します。

【失敗事例1】業績が悪化する

事業承継の実行後に見られる失敗は、かえって売上が落ち込む等の業績悪化です。
会社により異なりますが、後継者の経営判断に原因があるとは限りません。運転資金の不足、債務引継ぎに関する手配のまずさ、この後説明するトラブルによるリソース不足、目標設定のミス等、不可抗力と言えるような事情を抱えているケースが少なくないのです。

【失敗事例2】廃業に追い込まれる

業績悪化に関連して、事業承継の目的に反し、結果的に廃業を強いられることもあります。
もっとも、廃業は業績が原因とは言い切れません。社内で混乱が起きて人・ノウハウ等の経営資源が流出し、営業したくても業務が回らないようなことも考えられます。経営者交代の後になって「聞いていた内容と違う」と感じた後継者が、経営意欲を失ってしまう場合もあり得ます。

【失敗事例3】親族間で争いになる

特に親族内承継で多いのが、遺産の取り分を巡り、後継者と対立する家族が現れるケースです。公平性を意識して保有株式を分割させた結果、共同相続人による議決権行使のせいで、経営の舵取りが出来なくなってしまうこともあります。
他には、創業者から二代目に事業承継するケースでは、出資者である親族とその子・孫らとの関係を整理しなかったせいで、会社の意思決定に障りが出るケースも見られます。

【失敗事例4】事業用資産が分散する

ほとんどの事業は、不動産や自動車等の資産の上に成り立っています。これらが会社でも後継者でもない相手に渡ってしまうと、その事業承継は失敗です。
事業用資産が分散する要因は、主に遺産分割や遺留分侵害額請求への対応です。他にも、運転資金や株式買取資金を調達するため売却候補に入れてしまう等、失敗の形は複数あります。

【失敗事例5】離反や退職が相次ぐ

経営者交代の前後には、従業員や役員との結束が揺らぐリスクがあります。よくあるのは、後継者の資質が確かであるにも関わらず、社内関係者が反発して離反・退職が相次ぐケースです。
「人財」の流出が相次ぐと、当然ながら事業継続は難しくなります。さらに悪いことに、顧客情報・技術・ノウハウ等が持ち出され、社外に出た人物と同じ市場で競合してしまう場合も見られます。

【失敗事例6】後継者が追い出される

先代経営者として最も避けたいのは、これと見込んだ後継者が社内から放逐されてしまう失敗です。直接的原因として、相続の結果や経営方針に反発する株主の議決権行使が考えられます。他にも、業務の進め方等についてもめ事が起き、トップとしての仕事が全く任されなくなるような場合も考えられます。

【失敗事例7】後継者に辞退される

トラブル発生が懸念される事業は、後継者のやる気を削ぎます。先代と後継者の双方が事業を大切なものと認識していても、リスクの度合いが大きければ、後継者が辞退の意思を示すのも、やむを得ないことです。
事業承継の成否は、先代の「経営上のリスクや課題を残さない行動」が適切かどうかにかかっていると言っても、過言ではないでしょう。

事業承継の失敗を防ぐためのポイント

課税対策【事業承継税制の活用等】

事業承継の実行時には、株式その他の資産に多額の課税があります。後継者の経済的負担が過大だと、資金確保のため事業継続に必要な財産を売却してしまう等、トラブルの連鎖が起きかねません。
承継準備としてやっておきたいのは、節税と納税資金確保の両側面からの対策です。下記で紹介するのは、

▼「事業承継税制」の活用
後継者に取得させる自社株式については、非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除(事業承継税制)の制度を適用できます。特例措置を選択する場合、課税価格に制限なく、全株式への課税について納税猶予されます。さらに、先代経営者の死亡、承継期間後の再生手続等、一定の要件を満たした時には猶予分の免除があります。

▼「小規模宅地等の特例」の活用
店舗・オフィス・工場等の用に供している土地は、相続または遺贈の歳、小規模宅地等の特例による評価減があります。400平方メートルまでに限定されますが(特定事業用宅地等または特定同族会社事業用宅地等の場合)、減額割合は80%に及びます。

▼死亡保険金等による資金確保
各種税額軽減に繋がる制度を適用した後の課税額については、死亡保険金・死亡退職金として資金確保しておくと良いでしょう。それぞれ、法定相続人1人あたり500万円の非課税枠があります。

親族関係の調整【遺留分確保+遺言等の活用】

親族内承継では、遺産分割で議決権その他の資産が流出するリスクがあります。特に懸念されるのが、他の相続人の遺留分を侵害し、その補填を巡って事業用資産を売却せざるを得なくなる可能性です。
上記に関しては、具体的に以下の方法で対策できます。

▼遺言書の活用
遺言書を作成し、議決権付き株式は後継者に集約しつつ、あらかじめ確保した預貯金や無議決権株式等を共同相続人に渡るようにしておく方法は、親族内承継の対策の基本です。

▼信託の活用
信託を活用すれば、保有株式の権利を「議決権行使の権限」と「配当金を得る権利」に分離し、後継者と共同相続人にそれぞれ付与することで、効率的な遺留分確保が実現します。

株主整理+株式分散対策【株式の売渡請求等】

株主構成が複雑化したまま引き継ぎを行うと、後継者の代でそれぞれの意見をまとめ上げるのが困難になり、事業の継続にも経営革新にも困難が生じます。
創業時の出資者、また過去の相続で生じた親族株主は、売渡請求等で整理しておきましょう。また、将来の株式分散にも備えておくべきです。

▼少数株主の排除(スクイーズアウト)
意思決定の支障になる少数株主は、特別支配株主による株式等売渡請求(会社法第179 条)や、株式併合(会社法第309条2項4号・会社法第180条2項1号~4号)で排除できます。ただし、会社法に沿った手続きの他に、株価算定と十分な買取資金が必要です。

▼取得条項付株式等の導入
将来の株式分散対策としては、一定の事由が生じた時に会社が取得できるものとする「取得条項付株式」(会社法第107条・第108条)の導入が考えられます。相続での分散には、相続人等に対する売渡請求(会社法第174条)を定款に定める対策が有効です。

▼名義株・所在不明株主の整理
平成2年の商法改正以前に創業した会社では、発起人確保の都合で他人名義の引受がなされた「名義株」がよく見られます。その他、株主と連絡が取れなくなっている場合もあるでしょう。こうした株式は、後になって身元も意図も知れない人物が経営に関与することのないよう、会社法第 197 条による処分等を検討しておきたいところです。

個人資産との分離【経営者保証の解除等】

事業用資産と個人資産の境界があいまいなのは、事業承継を支援する制度(融資等)の利用を阻害します。特に経営者保証に関しては、後継者にとって「生涯解消できない負の財産」になりやすい上、承継の目的である事業再生にも差し支えます。
承継準備の段階では、プラス分・マイナス分共に資産状況を整理しておきましょう。

▼経営者保証を解除するための要件
・法人と経営者との関係の明確な区分・分離
・財務基盤の強化
・財務状況の正確な把握、適時適切な情報開示による経営の透明性確保

なお、事業承継時の経営者保証に関する対応は、新たな融資契約を含めて柔軟な対応が期待できます。取引先金融機関との協議では、税理士等の支援専門家を通すことで、保証債務の処理を円滑に進められます。

参考:経営者保証に関するガイドライン(全国銀行協会

経営状況の見直し【磨き上げも大切】

現在の経営状況を分析し、改善点への対応と「磨き上げ」を実施しておくことも大切です。
財務・会計の総点検を行い、本業強化も検討しましょう。重要な取引先に関しては、後継者を連れて挨拶回りもしておきたいところです。
社内に関しては、雇用や情報管理等もチェックしておかなくてはなりません。離反者や退職者が出る可能性はゼロにはならないため、競業避止義務を締結する等、損失を防ぐ対応も必要です。

事業承継の失敗回避策で専門的支援が必要になる部分

事業承継の前後に起こるトラブル・失敗を免れる上で、税理士等の専門家の介入は欠かせません。中小企業のほとんどは、準備を前進させるための以下の部分で支援を必要とします。

課税額のシミュレーション

事業承継で最も重要なのは、相続税・贈与税・譲渡所得税への備えです。いったん課税額をシミュレーションするにあたり、上場企業でない場合、会社規模等に応じた評価方法を見極めなくてはなりません。この時点で、税務に手慣れた専門家のスキルが必要です。
また、決算情報等と合わせて検討した結果、課税対象になる株価につき圧縮案が出る可能性もあります。具体的な方法は会社によって異なり、精度の高い診断が必要です。

節税方法の選択とその実行

税対策で有効なのは、事業承継税制を始めとする各種制度の活用です。制度の利用にあたっては、都道府県知事の認定等といった複数の要件があり、関連して「中長期計画の立て方」が問われます。
課税による後継者の負担を減らすためにも、事業を継ぐだけでなく、維持・発展させていくプランが欠かせません。そこで、実際に出ている数値から客観的に分析できる専門家の力が必要です。

株主整理や遺留分確保に関する対応

適切な株価算定は、株式分散対策で度々要求されるでしょう。既存株主から株式を買い取る、遺留分を確保する等の場面で、双方納得できる価額の取り決めが必要になるからです。
また、税理士が各種計算を請け負い、弁護士が交渉を進めるとのように、目的達成のため複数の分野での専門家連携が必要になる点もポイントです。

おわりに│事業承継の失敗は準備で最大限回避できる

事業承継の前後に起きる失敗は、資金や株式分散に関する準備の不足に起因します。経営者交代の前に以下のような対策を講じておけば、どれも最大限回避できるものです。

・節税+納税資金対策(事業承継税制等の活用)
・株主整理+株式分散対策(株式の売渡請求等)
・経営状況の見直し、磨き上げ(承継後の混乱防止+円滑な支援制度の活用にも繋がる)

承継失敗を未然に防ぐ方法は、会社により個別に判断する必要があります。また、準備開始のタイミングが早ければ早いほど、採用できる手段の選択肢も増えます。
不安なことがある場合は、事業承継や経営革新を多数支えてきた専門家に相談しましょう。

みどり財産コンサルタンツは、事業承継・税財務のご支援数5,500件を超える実績があります。
何から初めて良いかわからない。どこに相談したら良いかわからない経営者様、ぜひ弊社へご相談ください。

ご相談はお電話、またはお問い合わせフォームよりお待ちしております。

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