コラム Column

2019年07月23日

マイケル・ジャクソンと「フィデューシャリー・デューティー」

初めまして、​

6月に入社いたしました矢野利明と申します。

今回、はじめてのコラムになります。よろしくお願いします。

長い間、保険会社に勤務してきました。毎晩帰りが遅く、テレビの連続ドラマを見る習慣がほとんどありませんでした。

ところが、今回、福山雅治さん主演の日曜劇場『集団左遷!!』、銀行が舞台になっているということで興味を持ち(タイトルも刺激的ですね)、毎回楽しみに見てました。

何回目かの放映のとき、舞台となる三友銀行鎌田支店に金融庁検査が入る場面がありました。

検査官を前に棒立ちになる行員、慌てふためきながら対応する光景を見ながら、保険会社勤務時代に、似たような経験をしたことがあったな、とついニヤリとしてしまいました。​

ところで、2年ほど前より、金融庁は大きく方針転換し、金融に関わるもの(※1 以下、「金融事業者」)に求めるもの、また、その指導のあり方が大きく変わってきました(※2)。

 ※1 銀行・証券会社・保険会社・金融商品取引業者等(保険代理店も含まれます)

 ※2 「形式・過去・部分」から「実質・未来・全体」へ

そこで登場したのが、「フィデューシャリー・デューティー」です。​舌を噛みそうな言葉ですね。

 ※Fiduciary duty: 「Fiduciary(受託者)」と「duty(責任)」​を組み合わせた言葉とのことです。

つまり、「フィデューシャリー・デューティー」(※)とは、「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下、「原則」)のことを指します。​そして、金融庁は、金融事業者に対し、この「原則」の定着を呼びかけています。

 

この「原則」は、「金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる原則」を定めるものとし、以下、7つの原則に従うものとしています。

1.顧客本位の業務運営に係る方針の策定・公表

2.顧客の最善の利益の追求

3.利益相反の適切な管理

4.手数料等の明確化

5.重要な情報の分かりやすい提供

6.顧客にふさわしいサービスの提供

7.従業員等に対する適切な動機づけの枠組み

いかがでしょう? もう少し分かりやすくかみ砕いてみると、こんな感じになりましょうか?​

「お客さまのことをちゃんと考え、自分の利益ばかり優先せず、お客さまにほんとに必要なサービスを、分かりやすい言葉(文字)で提案しましょう。けっしてこういったことを妨げるような会社であってはいけませんよ!」

 

現在、金融庁のホームページには、「顧客本位の業務運営に関する原則」を採択、取組方針を公表した金融事業者の名前が公表されています。徐々に増加し、2019年3月末現在1,619社になります。

さらに、金融事業者は、「原則」の定着に向け、具体的な施策やKPI(Key Performance Indicator, 「重要経営指標」)を公表し、各社のホームページ等で取組状況を報告しています。

 

しかしながら、残念なことに、今回、お客さまの信頼を逆手にしたような、不正事件が発覚しました。

日本郵政とかんぽ生命による不適切販売は、お客さまの信頼を一気に失墜させました。

以前、同じ業界にいた者として、今どきこんなこと・・・??? といった感があります。とても残念なニュースです。

 

日本郵政とかんぽ生命は、2017年4月に「お客さま本位の業務運営に関する基本方針」を公表しています。

経営トップのメッセージの浸透が不十分だったのでしょうか? 社員個々の腑に落ちていなかった、ということでしょうか?​

たとえしっかりした基本方針や具体的施策を定めても、その実現が裏切られたとき、信頼は失墜、代償はとても大きいものになります。

さて、マイケル・ジャクソンの代表曲「マン・イン・ザ・ミラー」の歌詞に、次のような一節があります。

If you wanna make the world a better place

(もしも君が世界を住みよい場所にしたいと思うなら)

Take a look yourself, and then make a change

(自分自身を見つめてみなよ。変わるのは自分からだ。)

・・・・・・​

I’m starting with the man in the mirror

(僕は鏡の​中の人と一緒に歩きだす)

冒頭、テレビドラマの中の金融庁検査の一場面について触れました。

従来は、検査対策というと、金融庁が公表している「検査マニュアル」(2018年度で廃止)等に基づき、形式的かつ受動的な側面から、対応する傾向が強かったように思います。

しかしながら、これからは、このような検査という枠に囚われることなく、もっと広い視野から主体的に発想し、お客さまとの対話を重んじ、しっかりお客さまに向き合わなければなりません。

もし自分がお客さまであったら、どう感じるか? 理解できるか? 納得できるか? この提案が本当にお客さまが求めているものと思えるか? 自分の利益とお客さまの利益をはかりにかけていないか?

 

今回の不正事件は、調査が進むにつれ、ガバナンス体制が問われるような事態に発展してきました。また、提携企業との関係にも影響が拡大しています。

今回の事例を、対岸の火事と見ることなく、自らに問いかけることが大切だと感じました。

​では、今後とも、よろしくお願いします。

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