2021年01月26日
コロナ禍、「節税保険」の落とし穴にご注意!
Contents
~「節税保険」規制の影響~
2019年2月、「節税保険」の販売規制(いわゆる「バレンタインデイショック」)は、生命保険業界に大きな衝撃を与えました。
その結果、昨年は、生命保険業界は大きく売り上げを落としています。
新規契約を年換算保険料で示す統計では、2018年度 24,852億円に対し、2019年度 15,457億円(対前年度比62.2%)といった厳しい状況があります。
主に中小企業向けに販売されてきた「節税保険」が、生命保険業界にとって大きな存在であったことが分かります。
~ふたたび、販売ブームに~
最近、銀行・証券会社等では、中小企業の節税対策として、「ハーフタックスプラン」(養老保険2分の1損金プラン)の販売が好調と、しばしば耳します。
今から25〜30年前頃には、節税対策、決算対策といえば、「ハーフタックスプラン」が主流の時代がありました。
「ハーフタックスプラン」は、昭和55年に法人税基本通達で保険料の経理処理(福利厚生費1/2・保険料積立金1/2)が明確になって以来、長い歴史があります。
今回の「節税保険」の販売規制は、「ハーフタックスプラン」を対象としていません。
銀行を始めとする保険代理店が「節税保険」規制後の受け皿として、「ハーフタックスプラン」の販売に力を入れているのも、うなずけます。
~「節税保険」にまつわる苦い経験~
私は、以前、生命保険会社に勤務していましたが、「節税保険」にまつわる、苦い思い出があります。
いまも、お客さまからの学びを、教訓としている出来事があります。
ちょうど、人事異動で新しい営業店に異動した直後、私のもとに、次のようなクレームが報告されました。お客さまは、「ハーフタックスプラン」(養老保険、保険期間10年)にご加入の中小企業さまでした。
「社長が亡くなって、死亡保険金を請求したところ、1000万円の支払を受けた。保険金は1億円のはずだが・・・」
すぐ契約内容を確認したところ、初年度の年払保険料をお支払いいただいた後、2年目以降の保険料のお支払いを停止、払済保険への変更手続をされていました。
社長さまのご契約は、保険金額1億円のご契約でしたが、払済手続後の死亡保険金は1000万円程度に減額、満期時には同額の満期保険金が支払われる、といった内容への変更でした。
したがって、お支払いした保険金額には間違いはなく、払済手続に際し、説明に供したシミュレーション等の資料も確認できました。
~節税と保障を両立?~
早速、お客さまを訪問、お話しをお聞きしていくと、次のような事情が分かってきました。
「ハーフタックスプラン」は、「節税」を目的に加入したところ、加入直後に業績が低迷、節税の必要がなくなったので、顧問税理士の助言もあり、払済保険に変更しました。
ところが、想定外にも、社長さまが急逝、という事態になりました。
さらにもう一つの背景がありました。
「ハーフタックスプラン」の社長さまの保険金額が1億円であったことから、それまで、異なる保険会社で契約していた掛け捨ての保険(保険金額1億円)を、保障が重複するという理由で、解約していたのです。
保険会社が異なることから、残念ながら、このような事実は知ることができませんでした。
~後継の社長さまから、胸に突き刺さる言葉~
社長さまの奥さまはご主人を亡くされた悲しみ、また、保険金請求に伴う混乱から(おそらく悔しさも混じっていたことと思います)、ときに感情を高ぶらせ、しばしば涙を流され、3~4回の面談中、終始、厳しいお言葉をいただきました。私たちとしても、複雑の気持ち、辛い思いをしました。
そして、それまでいつも同席していたご長男さまが初めて言葉を挟まれました。
「母さん、もういい、今回はぼくたちのミスだ・・・あきらめよう、(そして私たちに向かい)ただ、心情的には保険会社にも責任がないとは思えない。(しばらく間が空いた後)ぼくの役員登記が終わったら、責任をもって生命保険の提案をしてもらいたい。」
ご長男さまと私が同じ年齢であったこともあり、この時のご長男さまの言葉が、いまも記憶に鮮明に残っています。
数か月後、後継の社長さま、ご長男さまから直接、お電話をいただき、生命保険の手続を行わせていただきました。
20数年前のできごとでありながら、思い返すと、言葉が胸に突き刺さり、複雑な感情が沸き上がります。
~従業員、従業員の家族をまもるもの~
生命保険の活用方法として、節税保険にも大きな効用があります。現在のコロナ禍、節税保険を解約し、多額の解約返戻金により資金繰りが好転、経営を救済された経営者もたくさんいらっしゃると思います。
一方、経営者に万一が起こった際、従業員、従業員の家族をまもり、経営を支えるのはやはり「保障」です。
日本人の約9割の人が生命保険に加入しています。米国の個人加入率は約6割ですから、日本人は生命保険が日常生活に馴染んだものになっています。
加入する保険商品も、米国などが変額年金など金融商品に類したものが多い一方、日本は死亡保障を重視したものが基本になります。
加えて、生命保険の法人契約についてみると、保険料を「損金」とする税制メリットの活用する仕組みは、日本特有のもののようです。海外には、生命保険の法人契約で「損金」という概念がないと言われます。
~節税保険「出口」でもう一度「保障」の確認を!~
「節税保険」の多くは、「入口」では「節税効果」、「出口」では「解約」(解約返戻金ピーク時)を前提としているケースが多いと思われます。
生命保険の本来の目的は、言うまでもなく「保障」です。たとえ、節税効果を期待しつつも、高額な保険料の対価は「保障」です。言うまでもなく、保険料の計算の基礎に税制は考慮されていません。
「節税」と「保障」の混同、理解のねじれが生じてはいけません。
「節税保険」の「出口」を考えるとき、「保障」はどのようになっているでしょうか?
その先の、「保障」はどのようにあるべきでしょうか?
「節税対策」と「死亡保障」、それぞれをしっかり理解し、対策に過ちがないようにしなければなりません。