2019年11月25日
「経営者のための遺言」
だんだんと寒くなり、朝、布団から出るのが辛くなってきました。
風邪が流行りやすい時期ですから、暖かくして風邪をひかないようにお過ごしください。
今回は遺言書がテーマです。
会社のオーナー経営者様は、万が一に備えて、遺言を残しておくべきだと考えます。
以下のケースを考えてみます。
家族構成:社長(父)、長男、長女、二女
資産:父は会社の株を100%保有。他に資産として、会社敷地、自宅土地・建物、預金
(社長は長男を後継者と考えている)
この条件で、遺言を残すことなく社長が他界した場合、遺産は法定相続割合で分割されますので、株、会社敷地、その他財産は、子供たちが1/3ずつの権利を得ることになります。
その後、兄妹で話し合い、長男に株と会社の敷地、長女に自宅土地・建物、次女に預金、などと決まれば問題はありませんが、話し合いがつかないと大変です。
例えば、仕入れや人件費の支払いで借り入れが必要になることがありますが、金融機関は担保が無ければ融資してくれませんので、株や土地の帰属が決まっていなければ、融資が受けられない場合もあります。
会社の株式については、1人が過半数以上を所有していれば、会社の重要事項を単独で決めることができますが、分散してしまうと方針の決定ができなくなってしまいます。
また、納税資金の問題もあります。遺産が大きければそれだけ相続税がかかります。子供たちが相続税を払えないということになりかねません。
このようなことにならないように、遺言書を残して遺産の分配をきちんと決めておくことは大切なことです。
ところで、遺言書といっても3つの種類があることをご存知でしょうか。
以下、3種類の遺言書についてご紹介します。
(その他にも、特別方式遺言という形式が4つありますが、特別方式とは緊急時に行う遺言のことで、一般的ではないので割愛します)
自分で手書きする『自筆証書遺言』
一つ目は、『自筆証書遺言』です。
自分で自書した遺言です。遺言書というと、この自筆証書遺言を想像される方が多いのではないでしょうか。
自筆ということですから、全部自分で書いて印を押します。ワープロは利用できませんので注意してください。財産の目録を同封したい場合、財産目録だけはワープロ可になりました(目録に署名押印は必要です)。
遺言書は書き方に決まりがあります。今回は割愛しますが、もし自筆で書きたいという場合は、決められた形式通りに書かないと無効になってしまう可能性がありますので注意してください。
さて、遺言を発見した場合は、封筒を開けないで家庭裁判所に持って行き、「検認」という手続きを行う必要があります。でも、発見したら、内容が気になりますよね。衝動的に開けてしまった、なんてことはよくありそうです。もし開けてしまったら、その遺言書は無効になるのでしょうか?
実は、無効にはなりません。ただ、開けてしまった場合、最高5万円の罰金が課せられることがあるので、発見しても絶対開けないで家庭裁判所に持っていきましょう。
保管方法については特に決まりは無いため、様々な場所に保管されている可能性があります。遺族が遺言書を探したけれど発見できなかった、ということはよくあるそうです。
2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管してくれる制度がスタートします。この制度を利用すると、遺言がルール通りに作成されているか確認してくれて、かつ検認は不要になります。費用は無料という制度ですから、自筆で作成する場合は、この制度の利用が拡大しそうです。
公証人が作成する『公正証書遺言』
二つ目は、『公正証書遺言』です。
遺言者の代わりに、公証人が遺言書を作成する手続きです。自筆証書遺言と違い、公証人が作ってくれるので形式に間違いがないということと、原本の保管をしてくれるので紛失の心配がないということが大きなメリットです。また、検認は必要ありません。
公証役場という場所で作ってもらえます。作成の際は、遺言者と公証人、その他に証人2人が必要です。証人は専門家でないといけないということはないので、信用できる方2人にお願いしましょう。そのほかにも、公証役場が証人を紹介してくれる場合があるようです。
遺言は、公証役場へ事前に連絡し、遺言書の草案をFAXなどで送っておいて、当日は内容に間違いがないかの最終チェックをして、完成品を作成するという流れになります。
公正証書遺言の作成には、作成費用が必要です。内容によって費用が変わってきますから、草案を送ったら、どのくらい費用が掛かるのか公証役場に確認します。
公証人は原本、正本、謄本、3通の遺言書を作成してくれます。原本は公証役場に保管されます。正本・謄本は遺言者に交付されます。正本は、原本と同じように遺言書としての効力を持つものです。謄本は、原本の写しで効力はありません。相続人が金融機関等で手続きをする際、謄本では受け付けてもらえないことがあるので注意が必要です。正本、謄本どちらも、紛失してしまったら再発行は可能です。
内容を秘密にする『秘密証書遺言』
最後に、『秘密証書遺言』です。
遺言内容を誰にも知られたくないという場合に使われますが、あまり利用されていないようです。
まず、自分で遺言書を作成します。自筆証書遺言との違いは、ワープロを使用しても良いということですが、自筆での署名と押印は必要です。封筒には、遺言で用いた印で封印します。その他、形式には決まりがあり、守られていないと無効になる可能性があります。
作成した遺言を公証役場に持っていき、公証人と証人2名の前で、自身の遺言書であること、氏名・住所を申述します。公証人が封筒に日付、申述内容、署名押印し、証人2名も署名押印します。このようにして完成した秘密証書遺言は、自身で保管します。費用は一律1万1000円です。
遺言の内容については、公証人の関与が無いため、相続開始後は、家庭裁判所による遺言の「検認」の手続きが必要になります。
おわりに
上記3つの作成方法の中では、公正証書遺言をお勧めしております。費用は掛かりますが、形式的な不備がなく、また原本紛失の危険もないので、遺言内容を着実に実行できるからです。今後、法務局での遺言書保管制度がスタートすれば、自筆証書遺言も具体的な選択肢になると思います。
遺言の内容についてですが、法的効力がある事項は大きく分けると3つに限定されています。
①相続に関すること、②財産の処分に関すること、③身分に関することの3つです。
法的効力は認められませんが、遺言者の想いを「付言」という形で残すこともできます。例えば、「法定相続と異なった割合で分割したのは、こういう理由だからです」ということが書かれていれば、遺族も納得しやすいでしょう。
遺言は一度書いたら終わりではなく、状況の変化に応じて書き直していくことが必要です。
「相続」が「争続」にならないように、遺言書は早めに準備しておきましょう。
(2019/11/25時点での情報に基づき制作しております。今後法令改正等があった場合はその限りではありません。また本コラムに掲載された情報に関しては信頼ある情報源から入手したものではありますが、その正確性を弊社で保障するものではありません。)