2020年09月09日
新型コロナウイルス等の不測の事態に備えて、法人税の節税対策って実行するべき?
先日、高収益法人の経理マンより「新型コロナウイルス等の不測の事態に備えて法人税の節税対策って実行するべきですか?銀行員からは、法人税を払って自己資本を高めるように言われたのですが?」と言われました。
その時の会話をもとに、私の回答を皆さんにも共有させていただきます。
高収益法人の経理マン:
新型コロナウイルス等の不測の事態に備えて法人税の節税対策って実行するべきですか?
銀行員からは、法人税を払って自己資本を高めるように言われたのですが?
税理士:
諸外国で多いのですが、企業が将来赤字に転落すれば一旦払った法人税の還付(脚注①)が受けられる国においては、銀行員の仰る通り、節税するより、節税をせず税金を払って内部留保した方が得です。
しかしながら、日本の法人税法においては、中間納税分を除いて、原則として法人税の還付はないのです。したがって、将来の不測の事態に備えて、利益を先送りしておくのは、自社の企業防衛のためにも、当然の権利といえましょう。
勿論、銀行借入を積極的に活用しようとする法人は、税金を払って、損益計算上の利益を計上し、自己資本比率が30%程度《日本企業の平均》になるまでは銀行の格付け上、内部留保をした方がいいかもしれません。
更には、期末資本金額等が1億円超の特定同族会社にあっては、留保金課税(脚注②)といって、内部留保に高い懲罰的課税が課せられることもあります。税務当局は税金をとりやすいところに課する傾向にあるのです。しかし、日本経済振興のため、内部留保をせず、設備投資すること等を奨励している面もあります。ですから、いやいやながらも、各種の節税対策を認めている面もあります。その期に設備投資するものがない場合は、とりあえず、節税商品(学術的には「利益繰延商品」という)に投資しておき、含み資産を作っておく方法もあります。法人税を払って、帳簿上の内部留保を増やすのではなく利益を先送りして、簿外の含み利益をつくり、不測の事態発生時に簿外の含み利益を取り崩し、経営を安定化させるのです。
高収益法人の経理マン:
銀行員からは、「先送りするだけで、どうせ税金を払わなければならないのだから同じですよ。」と言われたのですが?
税理士:
確かに、そういう面もあります。震災地での初年度全額損金型太陽光投資、初年度約7割損金のヘアカラー専門店経営とコインランドリー経営、逓増定期保険やオペレーティングリース、4年償却の米国中古建物投資、12か月償却のヘリコプターリース事業等利益繰延対策が当局から認められているのです。繰延だけの場合もありますが、現実にはほとんどの場合、他の対策との併用により後日免税されているのです。
高収益法人の経理マン:
「他の対策との併用により後日免税されている」というのはどういう意味ですか?
税理士:
結果として免税になった事例を5つあげてみます。
① コロナ禍により売上が激減し、大幅赤字に陥った飲食店が、5年前から毎年加入していた逓増定期保険を本年6月に解約し、本業の赤字と資金繰り難を解消して、かつコロナ感染予防対策投資もし、2020年9月には売上が90%も復活した事例も最近ありました。
② 九州洪水等の後、巨額の赤字に転落したが、全額損金経理した太陽光投資物件を売却したり、年払養老保険やがん保険を解約することにより企業倒産を回避できた事例が多くあります。保険の場合は、「倒産防止保険」としての機能を果たしました。
③ 販売先で不渡りが発生して資金繰りに窮したが、レバレッジドリースの中途換金(転売)により倒産を回避できた企業もありました。
④ 保険の満期に役員退職金を払ったので、法人税が節税できた。退職金に対する所得税の優遇税制も享受できた。
⑤ 節税対策を導入して利益が落ちた後に、ちょうど社長である大株主が亡くなり、社長の相続税が課税されずにすんだ。利益が少ないと、相続税法上の株価は非常に下がるのです。
高収益法人の経理マン:
中小企業の軽減税率(脚注③)で、繰延だけでなく、免税になることがあると聞きましたが?
税理士:
中小企業には軽減税率が適用され、課税所得800万円以下の部分の税率が23.2%から15%に軽減されます。
下記の事例の場合、65.6万円も法人税が減額され、免税になるので、私は、課税所得を800万円程度に繰り延べることを課税所得の1千万円超が予想される黒字法人に提案しています。
今期法人の利益が1600万円で来期の予想される利益がゼロの場合で、利益繰延をしない場合と、半分の利益を繰延べた場合との比較図
【今期利益1600万円、来期利益ゼロ予想で利益を繰り延べしない場合】
課税所得 | 税率 | 法人税額 | ||
今期 | 1600万円 | 800万円~1600万円部分 | 23.20% | 185.6万円 |
0円~800万円部分 | 15.00% | 120万円 | ||
来期 | 0と仮定 | 0円 | ||
2年分の税額合計 | 305.6万円 |
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
【今期利益1600万円、来期に利益800万円を繰り延べた場合】
課税所得 | 税率 | 法人税額 | ||
今期 | 800万円 | 0円~800万円部分 | 15.00% | 120万円 |
来期 | 800万円 | 0円~800万円部分 | 15.00% | 120万円 |
2年分の税額合計 | 240万円 |
※なお、住民税等は考慮していません。
【今期利益1600万円、来期利益ゼロ予想で利益を繰り延べしない場合】と【今期利益1600万円、来期に利益800万円を繰り延べた場合】の2年分の税額合計を比較すると、
【今期利益1600万円、来期に利益800万円を繰り延べた場合】の方が65.6万円税額が少ないことが分かる。
(脚注①)タックスアンサーNO.5763
(脚注②)https://biz.moneyforward.com/blog/18838
(脚注③)https://office-sas.net/houjinzei-tokurei/
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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